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あまりにも怯えている朱姫の様子に、知生も違和感を覚えながらも「取り敢えず、パジャマ着てこい」と促した。
小さく頷いた朱姫だったが、風呂場の方へ視線を移すと戸惑ったように目を逸らし、なかなか足を踏み出せずにいた。
「ふぅ…。ほら、一緒に付いてってやる」
「すみません…」
知生に伴われ、朱姫は脱衣所まで行くと「ありがとうございます」と言って戸を閉めると急いで着替えた。
「大丈夫か?」
「はい…。少し落ち着きました…」
「しっかし、そんなに怖かったのか?」
「………はい…」
「まあ、同じ蜘蛛が三回も目の前に現れりゃ、流石に恐ろしいか…」
「…えっと…」
「ん?」
「…それだけじゃ、なくて…」
「他にも何かあったのか?」
「今夜、部屋に来るって言われて…」
「………誰に?」
「…蜘蛛に…」
信じて貰える筈は無いと分かりつつ、それでも朱姫は蜘蛛が話した事や巨大化した事、部屋へ来ると言われた事を知生に話していった。
話を聞きながら、知生は朱姫が嘘を吐いてる訳では無いと感じていた。
しかし、内容が信じられず「気のせいだったんじゃないか」や「夢だったんじゃないか」と返していた知生ではあったが、あまりにも怯えている朱姫の様子に「マジか…」と呟いて口を閉じたのだ。
しばらく黙り込んだ二人だったが、知生は膝を叩くと「今夜は一緒に居てやる」と言って立ち上がり、朱姫の部屋へと自分の布団を持ち込んだ。
「よし!これなら、何かあっても直ぐに駆け付けてやれるだろ?」
「すみません…」
「気にすんな」
「ありがとうございます…」
「泣くなって…」
知生の思い付きにホッとした朱姫は、礼を言いながら両目からポロポロと涙を零した。
そんな朱姫を知生は宥めながら抱き締め、背中をさすった。
「しかしその蜘蛛、朱姫に何の用なんだろうな?」
「分かりません…」
「恩返しとかかもな」
「私、蜘蛛を助けたことなんて…」
二人は寝る準備をし、床に就いてからは蜘蛛について話していた。
蜘蛛は何が目的なのか、何故朱姫に会いに来るのか、そんな事を話している内に時間は深夜になったが蜘蛛は一向に姿を現さなかった。
その内に朱姫から寝息が聞こえ始め、知生は小さく微笑むと布団から抜け出し、眠る朱姫に近付くとそっと額にキスをした。
「おやすみ、朱姫」
「…気安く触れるな。その娘は、ワタシのモノだ…」
「っ…誰だ!?」
突然、どこからか聞こえてきた声に知生は上体を起こすと朱姫を守るように構え、目を凝らしながら辺りを見回す。
目が暗闇に慣れ始めると、目の前には巨大な何かの影があり、少し怯みながらも知生はその影へ疑問をぶつけた。
「お前は一体何者だ?」
「威勢が良いな。ワタシは蜘蛛だ」
「その蜘蛛が、朱姫に何の用だ?」
「言っただろう。その娘はワタシのモノだと」
「はっ、いつから朱姫はお前のモノになったんだよ…」
「その娘が、ワタシの巣に掛かったあの日からだ」
「巣に掛かった…?お前は!」
「ああ。お前が聞いた話の蜘蛛さ」
「何でそいつが…」
「あの巣はワタシが雌を呼び寄せる為のものだったのだ。娘はそれに掛かった。即ち、娘はワタシの子を成さなければならない。その為、触肢も埋め込ませて貰った」
蜘蛛の話に、知生は表情を強ばらせ更に身構えた。
「埋め込んだ、だと?」
「ああ。長く生きてるワタシはそこらの蜘蛛とは生態が異なってな…。生殖器である触肢を埋め込めば種族は違えど子は成せる」
「なっ!?」
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