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クモと生娘:終
蜘蛛の身体が無くなると、子蜘蛛達は四方へ散らばり、姿を消してしまった。
そんな中、一匹だけ残った子蜘蛛が朱姫へと近付き、糸を外し始めた。
朱姫の糸を外し終え、部屋全体に張っていた巣も全て畳んだ子蜘蛛は、一部始終を見ていた知生の元へと駆け寄り、糸を解くと他の子蜘蛛のように何処かへと消えていった。
「何だったんだ、一体…」
「ん…」
「朱姫!!」
「スー…、スー…」
「寝てる…」
身体を起こし呆然としていた知生は、小さく呻く声に朱姫の存在を思い出し、床に下ろされ横たわる朱姫へと近付いた。
朱姫は疲れからか眠りに就いており、その事にどこかほっとしながらも知生はこのままでは色々と不味いと感じ、取り敢えずと着替えさせた。
眠る朱姫をベッドへと横にし、散らかった物を元に戻す知生だったが、先程までの出来事が未だに信じられずにいた。
(何だってんだよ、たくっ…)
「スー…、と、もき…さん…、んん、スー…」
「朱姫…」
(目を覚ましたら、朱姫は今夜のことを覚えてるんだろうか…?もし、覚えてたら…)
名前を呼ばれ、ふと朱姫を見つめた知生は、朱姫が蜘蛛とのことを覚えていた時のことを考え眉を寄せた。
ただでさえ、男との経験が無いであろう娘が、苦手な蜘蛛に襲われ、ましてや子を身籠り産んだなどと分かれば、精神に異常をきたしかねない。
覚えていないことを願いながら、朱姫へと近付いた知生は手を伸ばし頭を撫でた。
それからそっと、額に口付けし、部屋を後にした。
翌朝、朝食を作りながら知生は朱姫が起きて来るのを待っていた。
(もし、昨夜のことを覚えていたら俺は…)
カチャ
「…おはようございます、知生さん…」
「…おはよう」
「あの…、昨夜の、事なんですけど…」
「…ん?」
「私…、あの蜘蛛に噛まれてからのことをあんまり覚えてなくて…」
「そうか…」
「知生さん、私、一体なにが…」
「ん~…、まあ、もうあの蜘蛛は出ねえ事は確かだな」
「え…?」
「あいつ、あの後どっかに行っちまったよ」
昨夜のことを朱姫が覚えていないことにほっとして、知生は淡々と蜘蛛が消えたことを告げた。
始めは不思議そうに話を聞いていた朱姫だったが、知生が自分を怖がらせないようにしていることに気付き、その姿に優しさを感じ笑顔で「そうですか…」と返した。
朱姫の笑顔に知生は胸を撫で下ろし、作っていた食事を皿に乗せ、食卓に出したのだった。
「まあ、また出たら今度はちゃんと守ってやる。…必ずな」
「っ、…はい!!」
「ほら、早く飯食って、学校行って来い」
「はい。頂きます」
(…もう二度と、朱姫をあんな目には遭わせねえよ…)
終わり
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