無人の街・横浜で

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 第二章 「ブルート」  乾いた血痕が付着した階段をゆっくり下りていくと、突如(とつじょ)ナイフが勇人の足元に飛んできて床に刺さった。「危ないな」と息を吐きだす彼に、「大丈夫?」と声をかける。「平気だ。これは奴らが飛ばしたものだな。音を立てずに行くぞ」二人は段ボールが山積みになっている場所を静かに歩きながらあたりの様子を確認する。  「今のところ、奴らには見つかってない。このまま進もう」再び歩き出そうとした彼の肩をつかんで「勇人、あれ見て」と小声で言う。彼女の指差す先にはナイフを持った三人の男と、口に粘着テープを三重に巻かれた大知と雪の 姿があった。  「あいつら・・・!」と憤怒(ふんぬ)の表情を浮かべる彼に、「私が奴らに向かってコートを投げる。そのすきに二人を連れて逃げよう」と言う。  「危ないだろ、お前にもしものことがあったらどうするんだ」「でもこのままだと、二人が殺されるかもしれない」彼女の言葉に勇人はうなずき、後ろにあった段ボール箱を持って待機する。  三人の男の前に彼女の黒いコートが飛んでいき、彼らの上に覆いかぶさると 二人はすばやく飛び出し、段ボールを投げて男たちを階段から落とし、大知と雪に駆け寄って粘着テープを外してからドアを開けて外に出た。後ろから大きな二匹のムカデと緑色で中型のヘビが四人を追いかけてくる。  「お兄ちゃん、あたし怖い」と言って雪が勇人に抱きついてくる。「お前や大知を死なせたりしない」と妹に優しく声をかけ、勇人は男たちをにらみつける。  「俺のきょうだいたちをおびえさせやがって。父さんと母さんはどこにいるんだ」と怒りをあらわにする勇人に、ブルートのリーダー・赤坂 (あかさか じゅん)はにやりと笑いながら「後ろを見てみろ」と答え、階段の下を指差す。そこには口と手足に粘着テープを巻かれた勇人の両親の姿があった。二人は晴香たちに気付くとゆっくりと目を開けた。晴香と勇人が駆け寄ってテープを外すと、「ありがとう」と満面の笑みを浮かべながら立ち上がる。「生きてたんだな父さん、母さん。よかった」「無事だったんですね」と二人が涙ぐみながら声をかけると、そっと頭をなでてくれた。    駆け寄ってきた雪の肩に手を置き、晴香は純から一歩離れる。「姉さん、ここから逃げないと」と大知に肩を軽くたたかれ、「うん」と答えて六人で走り出す。  男たちはオオスズメバチを飛ばしながら彼らの後を追ってきた。息を切らしながら懸命に走る晴香たちの前に、丸い頭と真っ白な体を持つ鳥が飛んできた。            
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