無人の街・横浜で

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 第三章 「窮地を救う者」  それは足輪をつけたオスのシロフクロウだった。黄色い双眸を(またた)かせながら男たちをじっと見ている。真っ暗な空の中に浮かび上がる姿はとても美しく、四人は思わず「はあ~」と息を吐いた。  純がヘビを飛ばすと、尖ったかぎづめでつかんで絞め殺し、勇人の肩に止まった。  「ムカデやオオスズメバチもいる。俺はお前たちを殺す」と叫んで、純は 晴香に近付いてリボンタイをつかみ、首にナイフを当てる。  「晴香!」と叫んで勇人がこちらに向かって走ってこようとするが、純の 部下二人が彼の両手を縛った。  大知が材木置き場にあった木を三本持ってきて、純たちに気付かれないようにジーンズのポケットからマッチを一本出して火をつける。  オオスズメバチとムカデが二人に向かってきた時、大知は燃える木材を投げた。白煙が上がり、炎に包まれた昆虫たちはすべて息絶えた。  純の部下が悲鳴をあげて晴香と勇人を放し、走って逃げだした。「姉さん、 勇人さん、雪ちゃん、おじさんとおばさん。逃げましょう」「ああ」六人は街に向かって走り始めた。  「待て!まだ俺がいるぞ!」と叫んで、純が雪の足をつかんで転ばせる。 すると、勇人に足輪を外されたシロフクロウがそちらに飛んでいき、純の顔を翼ではたいた。うめき声をあげる彼の後ろに近付いて妹と手をつなぎ、勇人が 晴香たちのところへ戻ってきた。シロフクロウが再び彼の肩に止まる。  「ありがとうな、大知。俺と晴香を助けてくれて。あとお前も」と言って、 勇人は満面の笑みを浮かべながら大知とシロフクロウの頭をなでる。  「とっさに『ヤバイな』って思ったんで」と顔を赤くする弟を、晴香は抱きしめて「すごい判断だったよ」とほめる。  「姉さんと勇人さんがあいつらに殺されるのはやだなって思っただけだよ。 それにそのうち、両想いになるかもしれないじゃん」という彼の言葉に、晴香と勇人は思わず笑い出した。トバリが二人の足に顔をくっつけながら「なあ~」と鳴く。  「それじゃあ、俺の家に行くか。ここにいたら、また襲われるかもしれないし」と言って、勇人が先頭に立って歩き始めた。晴香たちもその後に続く。  なだらかな道をまっすぐ進んでいくと、一軒の日本家屋(かおく)が見えてきた。                  
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