無人の街・横浜で

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 第五章 「大知の心の景色」  「おれの家族はとても暗い人たちでした。今でも覚えてるのは、祖母に『おばあちゃんだってけんかすることがあるのよ』って言われた後、ノートに書いたひらがなを見せたら、『嫌だ。そんなもの、見たくもない』って言われたことですね。当時は5歳でした。  小学三年生の時に母親がひとりで千葉に移り住んだので、父がいる岸家に来たんですけど、姉の祖父母に暴言を吐かれていました。  息苦しい生活の中で姉は俺のことを大事だって言ってくれて、嬉しさのあまりふとんの中で泣きました。  祖父母が亡くなった時、しばらくは何も感じることができませんでした。後になってから『ああ、もうあの二人はいないんだ』ってほっとしました」そう言うと、大知は大きく息を吐きだした。勇人がコップに水をついで彼に手渡すと、「ありがとうございます」と言って一気に飲んだ。  「おれにとって、姉は誰よりも大事なんです。彼女を傷つける者は許しません」大知の言葉に、勇人は「お前は優しいやつだな」と声をかけ、肩に手を置く。  「おれが今、心に感じていることは『幸せ』です。絵にするなら、雲がまったくない青空と、あざやかな緑色の葉っぱですね」と言って、大知はトバリの 頭をそっとなでた。それから勇人のほうに顔を向ける。  「勇人さん。ブルートの一人、清水真紀を拘束しましょう」「どうやって?」「あなたのシロフクロウを使って、階段の下まで走らせてください。 彼女がそこまで来たら、おれが後ろから近づいて転ばせます」「分かった。 敵も強いから、気をつけてくれよ。明日、やるからな」「はい」  二人の会話を寝室で聞いていた晴香が、心配そうな顔で居間に入ってきて 弟を抱きしめる。「勇人、大知。私も行くよ」「姉さんも?」「私もブルートについて知りたいことがあるから。それに、二人が負傷したら誰が手当てするの?」彼女の言葉に、勇人と大知は苦笑する。  「分かったよ。あいつらと戦う時、工夫しろよ」「姉さん、よろしく」「こちらこそ。もう9時過ぎたから、お風呂入って寝よう。勇人、お風呂借りるね」と言って、晴香は脱衣所へと向かった。    
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加