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第六章 「両親との戦い」
翌朝6時。晴香たちは朝食を済ませた後、材木やロープなどを持って廃業したレンタルビデオ店の中に入った。勇人の肩にはシロフクロウが止まっている。
「早いのねえ」という声が背後から聞こえて振り返ると、清水真紀が立っていた。切れ長の瞳には緑色のアイシャドウが塗られている。
「お前のせいで、横浜駅は停電している。どうして赤坂純に従っている?」大知が叫ぶと、彼女はにやりと笑って「人を見るのが嫌になったからよ、大知」と答える。
「(!? この女、おれのことを知っている!?)」冷や汗が背中をつたって流れるのを感じ、手にも汗がにじんだ。
「戦いを始めるわよ」と言って、真紀がくわえていたたばこに火をつけ、綿にバターを含ませた自作の爆弾に向かって投げる。すさまじい爆発が起こり、
白煙があたりを覆った。
大知がせきこみながら真紀に近づき、ロープで彼女の手を縛る。その間に白煙は薄くなり、消えた。
「まだ終わってないわよ!」と叫んで、真紀は晴香に向かってナイフを投げる。ナイフはレジの奥にあった古いコンピューターに刺さった。
「姉さん、けがは?」「ないよ。ありがとう大知」姉と弟は互いの無事を確認すると、材木を持って真紀の攻撃に備える。
「やるわね。あの男を呼びましょう」真紀は「出番よ」と入り口のほうに
向かって声をかける。すると、白髪で四角い黒縁メガネをかけた茶色いコート姿の男が現れた。晴香と大知ははっとする。
「父さん!?」それは二人の父・誠だった。
「なんでこいつらと一緒に行動してるんだ?」大知が落ち着いた声で聞くと、誠は「会社の同僚に会うのが嫌でひきこもりになってた時、真紀に声をかけられたんだ」と答えた。
父の言葉に、晴香が激高して叫ぶ。「どうしていつも自分のことしか考えないの!もう会いたくないと思ってた!」嗚咽をもらす姉の手に、大知がハンカチを握らせる。
誠は娘のほうをちらりと見て、真紀に「爆弾であのガラスを割ってくれ」
と言った。彼女はうなずいて、二個目の爆弾を投げようとする。
「やめろよ!」と叫んで、大知が真紀のコートをつかむ。彼女は大知を
床にたたきつけ、爆弾を投げる。激しい爆発が起こり、ガラスの破片があたりに散乱した。
「大知、大丈夫?」晴香が弟に駆け寄り、破片をよけながら出口に向かって
ゆっくりと進む。勇人が二人に肩を貸しながら「平気か?」と声をかけてくれた。
「うん。あの爆弾はすさまじい破壊力だよね」「ああ。まだ床のまわりに
5個残ってる。こいつにあれを運ばせて、やつらを負傷させる」と言って、勇人はシロフクロウを黒い棚の前へと飛ばす。そうして爆弾についている短い線をかぎづめでつかませ、誠と真紀の前に落とした。
煙が薄くなると、二人がゆっくりと立ち上がった。額から出血している。
「立ってられないぐらい、足が痛い」とつぶやいて、真紀が棚に寄りかかる。彼女の足にも切り傷ができていた。
「スマートフォンで警察に電話した。警察署は残ってて、人も一人いた」と言って、大知が二人を出口へと連れて行く。晴香たちも後に続いて外に出た。
「大知、さっきの素早い動きにびっくりしたわ」真紀はそう言って彼に向かって微笑む。「あなたはなぜおれのことを知っている?もしかして」「そう。あなたの母親よ」大知は驚きのあまり動きを止める。
「千葉に住んでるんじゃなかったのか?」「三年前に東京に引っ越してきたのよ。夫からあなたのことは電話で聞いてた」「じゃあ、父さんの後妻ってことか」「ええ。晴香っていう女の子に、大事にされてるのね」にじんだ涙をパーカーの袖でぬぐい、「もうすぐ警察官が来るから!じゃあな!」と手を振る。晴香は彼らと目を合わせようとしなかった。
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