グレゴリーペック

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今日も今日とて、俺の足は大学の図書館に向いていた。さらにいうと、今日も今日とて汗でびっしょりになっていた。家で涼んでいれば快適に過ごせるというのに、わざわざ俺は疲れる方を選択した。それは、他でもない、よしみに会いたかったからなのかもしれない。でも、もしかしたら違う理由であるのかもしれない。俺は未だかつて経験したことのない、得体の知れない感情に戸惑っていた。 大学の校舎内に足を踏み入れる。外とは、まるで空気が違う。さっきからべっとりと肌にくっついていた自分の汗が、ひんやりとした不快な感触へと変わるのを感じる。俺は汗を素手でぬぐいながら、図書館の中に入った。中は一段と涼しい。時刻は午前10時を少し回った頃。 周りを見渡すと、よしみの少し派手な服装が目に入った。 どうしよう。俺は何故、今日も図書館に来てしまったのだ。本なんか読む必要もないのに。 何て声をかけたらいいんだ..........。 頭の中で考えがまとまらないまま、のそのそとよしみの元へと近づく。俺に気づいたよしみの反応は、意外にも自然で、素っ気ないものだった。 「あ、匠、今日も来たんだ。本嫌いなくせに(笑)」 「うん、習慣になっちゃってね」 よしみはにやり、と意地悪そうな笑みを浮かべながら茶化してくる。俺はそんなよしみの様子に、怒るでも、見惚れるでもない、何とも不思議な感情を抱きつつも、適当な返事を見繕って答えた。しかし、次の瞬間、よしみは俺の脳内の核心に切り込んできた。 「とか何とか言って、私に会いに来たんじゃないの〜?」 「え、うんまあね」 暇だしねー、とその後につけ加えたのは、正直な気持ちを100%伝えてしまうのが怖かったからだ。というかそもそも、俺はよしみに会いたいから図書館に訪れたという事実を認めてしまうことも、怖かった。 よしみは空気を読んでくれたのか、俺にそれ以上は追求せず、話題を変えてくれた。 「へへ、じゃあさ、私もうちょっとで本読み終わるから待ってて、そしたらごはん食べにいこうよ」 「うん!」 よしみの提案が嬉しくて、つい、勢いよく返事をした。すると、よしみはまたニコッと笑って手元の本に視線を落とす。よしみの屈託の無い笑顔に、今度は完全に見惚れてしまった。 よしみが本を読んでいる最中も、俺は彼女の顔を様子をじっと見ていた。ここまで人のことをよく観察したことは無いが、よしみはよく見ると端正な顔立ちをしていた。特に、目鼻立ちがはっきりしている。 きっと、男子たちにもモテるのだろう。もっとも、そういうことに無頓着な俺はそんな事を気にしたことはないので実際のところは良く分からないが..........。 しばらくすると、よしみは本を読み終え、俺を昼食に誘った。昼食の間、俺たちは色んなことを話した。俺はよしみと話していて素直に楽しかったし、彼女の方も以前に増して楽しそうに見える、気がする。 このような生活を、俺たちは毎日過ごすようになっていた。これが俺の日課であり、楽しみだ。こうなってくると、俺はよしみに対して好意的な感情を抱いているという可能性を否めなかった。それぐらい、楽しい毎日だった。 地味だが、なかなか良い夏休みだ。
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