俺とあいつのこと

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 湊人とは高校のクラスメイトとして出会ったのが始まりだ。  桐ヶ( )辰志(たつし)と桐谷湊人ーー、最初の席が前後になったことで話すようになった。高校を卒業する時、湊人からの告白で付き合うようになり、そこから付き合いは続いている。  地元の大学に進学し、二年の頃湊人が芸能界にスカウトされた。最初は地元から通いで細々した仕事から始め、卒業と同時に東京に引っ越し本格的に俳優の仕事を始めた。  俺も、就職を東京の会社に決め、上京してきた。湊人は本格的にテレビに出始めるとあっという間に話題になり、期待の新人として持て囃されるようになった。そんな俺たちが、一緒に暮らし始めたのはこの四月からだ。それまでは別々に暮らしていたが、仕事が終わると大抵湊人はうちに来る。セキュリティなんてないも同然な安アパート。それが、湊人のマネージャーは不満だった。湊人は大事なときだ、今変な噂がたつのは困る、と。男同士、ただの友人同士と最初は見えるだろう、だが、察しのいい人間はいる。そういうゴシップを好む人間もいる。これからというときに、人気俳優がゲイで男の恋人がいるなんてことが知れたらーー。  マネージャーとの繰り返しの話し合いの結果、セキュリティの万全なマンションの高層階の二部屋を用意し、それを俺と湊人がそれぞれ暮らしているように見せることで、同じマンションに帰ることも、同じ階で降りることも、カモフラージュさせるという話で決定した。その階には俺たちの部屋しかないため他の住民がこの階で降りることもない。  実際には、もう一つの湊人の名義で借りている部屋はほとんど使わない。湊人が集中したいときとか、湊人が人を呼ぶときはその部屋を使う。  そんなもったいないこと、俺は正直本当にいいのかって思ったし、俺なんかが暮らせるようなマンションじゃないこともわかっている。でも、湊人に押しきられたし、マネージャーにも湊人のためにそうしてくれと頼まれたため了承した。
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