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湊人の部屋は、湊人の事務所が用意してくれた部屋で、俺名義のこの部屋は湊人が用意してくれた。俺も給料の中から少しずつためて、半額をいずれ返すつもりでいる。
こんな不相応な部屋を借りることは、実家には宝くじが当たったから残しとくのも怖くてマンションを購入したと嘘をついた。良心は痛んだが、俺なんかが手出しすることなんて到底無理なことはわかっていて、不審がられるのも嫌だったから。
「美味しい」
「本当? よかった。なんか、味見してたらよくわかんなくなってきたんだよね」
「あるよな。そういうの」
「ね、たっちゃん」
「ん?」
「俺ね、明日からまた連続ドラマの撮影で地方にいくんだ」
味見のせいでお腹が一杯になったのか、湊人によそわれている料理は俺よりずっと少な目だ。茶碗をコツンと置いて湊人が少し寂しげな声を出す。
「うん。気を付けてな」
「うん。・・・・・・あの、だからね。頑張れるようにさ・・・・・・」
湊人が言いたいことはわかった。顔を真っ赤にさせて、伺うように視線をあげると必然的に上目遣いになる。意図してやっている訳じゃないのだからたちが悪い。
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