其の三 サル山事情

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「話を進めてもらってもいいでしょうか、華煌様。」 それまであまりしゃべらなかった参謀が、口を開いた。 華煌のイメージで何故か装着されている眼鏡のフレームをくいっと上げる。 その様はまるで人間の会社員か何かのようだと、華煌は思わず拍手をした。 何故華煌が手を打ったのか分からず、参謀は僅かに首を傾げた。 「ああ、ごめん。そうだよね。悪かった。時間は有限だ。」 陰態においても時間は流れる。 さらに大将たちは目覚めてしまえば陽態に戻らなければならない身。 そろそろ本題に入らなければならなかった。 「俺が今回君たちの世代交代に口を挟むのは、こちらでの俺の仕事と関わりがあるんだよ。」 こちらの仕事ーーそれは、天狗本来の人々の願いや厄除けのために奔走することではなく、己を高めるための修行でもない。 「実は、このお山の株式会社化を提案して、それが機能し始めたんだ。」 株式会社と聞かされても、参謀も番長も何の反応も返さなかった。 彼らには何のことか分からないのだ。 「ああ、俺も同じような反応だったぜ。いきなり株式会社だの言われても分からねえよなあ、俺らには。」 大将が苦笑いを浮かべた。
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