其の三 サル山事情

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「旦那。こっちの世界に俺ら猿がいねえってのに、サル園管理なんてもんを盛り込んだのか。」 呆れる大将に、華煌は自慢げに頷いた。 「誰かツッコんでくれたら止めたかもしれないのに、誰も指摘しなかったので、俺は君たちをこうやって呼び込むことが出来た。いずれ八人衆の前で申し開きをしなくてはならないだろうけれど、ちゃんと宣言して職務内容も明言してあるのに指摘しなかったのは他の7人だから、大して問題にはならないだろう。大権現様に至っては、非常にお楽しみになられておられるだろうからなあ。」 他の7人には怒られ慣れているから平気だよと言う華煌に、大将は困ったお人だとかぶりを振り、参謀と番長も困惑した表情になった。 「さて、こちらの世界だけれどね。当然のことながら人間はいない。そして、君たち猿も。」 ここは高尾山でありながら陽態、人間社会において気軽に登山を楽しめる観光名所の高尾山ではない。 裏高尾山というところだろうか。 天狗たちにとっては、こちらが主であり表なのだが。 「飯綱大権現様のお力で守られているこのお山には、天狗しかいない。大天狗と烏天狗の2種類だ。大天狗たちは烏天狗たちを下に見る傾向にあり、烏天狗も大天狗に従っているが、もともと大天狗と烏天狗は近くても同じ種ではない。烏天狗が修行によって強い神通力を身につけて大天狗に変化することはないんだ。」 だから、従えるのではなく権利も平等にあるべきだと思うのだけれどこちらは上手くいかなくてねと華煌は少しだけ嘆くようなポーズをとった。
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