其の三 サル山事情

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様々な生き物がいる陽態とは違い、陰態は非常にシンプルだ。 植物ならばともかく、明確な自我があり動くものは非常に限られている。 人が存在しない陰態では、人ならざるものが主役だ。 「まあ、ようするに一つは閉塞感かなあ。俺たち天狗は飯綱大権現様に帰属しこのお山に縛られているようなものだから、基本ここから離れることはしない。陽態で人の開運除厄や大願成就のために動くことがあっても、その任が終わればすぐにお山に戻ってくるし。」 広報外商部の阿南子だけは別だ。 他のお山とのやりとりを任され、今まで以上にお山の外に出ることが増えた。 だが、他の天狗たちは違う。 「俺や、人間社会から刺激を受けて新しいことを始めたい企画部の峻妙様は、お山のふもとの世界も覗きに行くけれど、天狗は今の世界に何の疑問も不満もない。だから、新しいことを始めようとは思わない。新しいことに関心がない。こちらが持ち込まない限り。だから、俺は動くんだよ。」 例えば。 「お山に天狗以外の生き物を入れるとか。別視点からの俺たち天狗の所業の反省と改善とか。」 「ようするに、天狗ばっかりのこの世界に俺たち猿が物申す仕組みを作りたいってのかい、旦那は。」 そいつは無茶だろうと大将がまたしても呆れた。 「そんな大それた意図があったんなら、俺はほいほいと人型を受け入れなかった。」
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