其の三 サル山事情

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「ふざけんなよ!天狗が何言っても、あっちの世界じゃあ関係ねえ!強いやつが群れのボスになるんだ!」 「強くて、群れを守ろうとするやつがね。」 喚く番長の方をちらりと見た華煌は、笑顔を貼り付けたままであるにも関わらず、ひやりとした響きを声に滲ませた。 獣である3人の本能が、瞬間的に警鐘を鳴らすような冷たさだった。 「陽態での世代交代、やりたいならやればいい。それに関しては俺は異議を唱えない。でも、こちらの世界に来てもらうときは、君ではまだ力不足だ。何故なら、ここはあの小さな岩山で構成されたサル園ではない。君の強さが通用する世界じゃあないんだよ。」 圧倒的な力の差を突きつけられて、番長が怯む。 「旦那。それは俺にだって言えることだろうがよ。」 「いやいや、大将は別。俺が見込んだだけのことはある。たった一人だけこっちに呼び寄せても、俺と対等に話をしてくれたしね。だから、大将の相談にものったんだよ。どっちが次のボスに相応しいかって。」 大将が口を挟んだ途端、華煌の態度から凄みが霧散した。 番長に見せた冷ややかな声色が、一転、機嫌のよいものに変わる。 「俺の結論から言うと、大将にはまだ頑張ってもらいたい。世代交代はあと1年は待ってもらいたいかな。その間に参謀か番長のどっちかがもう少し力を付けてくれたらいいと思うよ。先に大将くらいの器になった方を、次のボスに推してもいいかなあ。」 つまりは、次代のボス猿決めは今回は見送るとの華煌の意見だ。 相談した意味がねえだろうと、大将が深い溜め息をついた。
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