其の三 サル山事情

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「ということは、1年の間に大天狗の華煌様に認められれば、次のボスに推してもらえるというわけですね。」 参謀が、華煌のイメージで作り上げられた眼鏡のフレームをくいっと上げた。 慣れないそれがずり落ちてくる感覚に無意識にしたその行為が、妙に人間くさい。 「ならば、私にも機会があるということになる。」 参謀は、現在群れの中で大将の右腕的存在で地位も高い。 しかし、厳然たる肉体の強さでは、番長に劣る。 華煌の提示したあと1年の間に歳をとるが、強くなるために使える時間でもあると、そう理解したのだ。 「向上心があるのは好みだなあ。何、肉体の年齢なんて、よほどの若年か高齢でない限り、意外とどうにでもなるかもしれないよ。現に今の大将はおじいちゃんに片脚つっこんでいるけれど、君たちより強いしね。」 「片脚どころか腰まで浸かってるだろうが。」 大将に言われて、華煌がいやいやと手を振った。 「年を取るという変化、俺は好きだなあ。天狗では味わえない変化じゃないか。ということで、大将の相談事はこれで一件落着でいいかな?次は俺の頼みごとなんだけれど。」 かなり雑にボス猿の世代交代問題を横に置かれ、華煌の提案に話が移ったことで、再び3人緊張が走った。
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