其の三 サル山事情

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「何かいい案があるんだろう、華煌。」 峻妙に尋ねられ、華煌ははて、と頭をこてんと傾げてみせた。 その口元には、いつもの不敵な笑みが浮かんでいた。 「駄目に決まっているだろう!おまえ、何を考えているんだ!」 吉津太郎に怒鳴られても、華煌は涼しい顔をしていた。 ここは薬皇院の奥の間、飯綱大権現の御前。 集まっているのは大天狗八人衆だった。 株式会社化してから定期的に業務報告が行われるようになったその場で、華煌はサル園とそれに伴うサルたちの陰態召喚を報告した。 最初に激しく反応したのは、吉津太郎である。 「おや。何が駄目なのかな。吉津太郎よ、説明してくれるか。」 「だって、サルだろう!?天狗じゃないし、獣だぞ!」 「おまえ、いつから差別主義者になり下がった。サルとて陽態ではこのお山で生活する生命。いわばお山の力の循環に含まれる存在。それと我らにどれほどの違いがあろう。天狗とて大天狗と烏天狗に分かたれている。声を出さぬ薬草も樹木も存在するこの陰態で、天狗でないからサルはいかんとは、はて。」 「詭弁だ!だ、だったら、人はどうなんだ!」 「すり替えるなよ、吉津太郎。俺は人を呼ぶなどと一度も提案したことはない。なにしろ、株式会社化を提案した時、福利厚生部の業務内容にサル園が含まれていたのに何も言わなかっただろう。 「そ、それは・・・」 気付いていませんでしたと素直に認めるのが悔しくて、吉津太郎は唇を噛んだ。
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