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「どう考えても他のお山にないものは、あの薬湯温泉とお休み処だからな。」
普通の温泉であれば、他にもあるかもしれない。
ただし、天狗たちが使っているかどうかは不明だが。
しかし、ここ隠態の高尾山における薬湯温泉は、これまた福利厚生部が管理している薬草園を利用しての入浴施設で、修行後の疲労回復にもよく効くなどと最近はよい噂も囁かれるようになった。
前回の会合で、「こういう口コミも大事だねえ」と峻妙がしきりに感心し、他の大天狗たちが「口コミとはなんぞや」と不審げな表情を浮かべたのを思い出し、華煌は笑いを噛み殺した。
それが阿南子には気に入らなかったらしい。
「何がおかしい。」
「いえ、温泉にも峻妙様が何かと関わりになられているもので、それを思い出しまして。」
「あれにも困ったものだ。最近は修行も疎かになっているのではないか。いくら株式会社の仕事を熱心に行っていても、天狗としての本分を疎かにするようでは、法羅光坊に命じて調査してもらわねばならん。」
「阿南子様。それよりも、我が福利厚生部の薬湯温泉とお休み処のことですが。」
阿南子の怒りが峻妙に向きすぎないよう、華煌は話を自分の方に戻した。
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