其の四 管狐(くだぎつね)騒動

25/75
前へ
/384ページ
次へ
「気遣いありがとう、大将。ま、何とかなるさ。新しいことや変化には、それなりの痛みが伴うのが定説だろう?」 気にしない気にしないと、華煌は軽く手を振ってみせた。 大将たち猿を伴ってお休み処を訪れてから数日後。 戸隠山より大天狗が10名、ここ陰態の高尾山にやってきた。 彼らもまた、この陰態では人型である。 移動してきたので羽は出しているが、別段大きく長い鼻をしているわけでも、ぎょろりとした眼(まなこ)が特徴的な異形の風体でもない。 10名は皆筋骨隆々、修行でさらに鍛え上げたかのように見える体格をしていた。 「すげえ・・・」 華煌の隣の吉津太郎は目を輝かせた。 「どんな修行をしているんだ。ぜひともお伺いせねば。」 「吉津太郎よ。みてくれで鍛錬の成果を推し量るのはよしとけ。それより黙らぬと智多勝様に叱られるぞ。」 小声で華煌が注意をする。 彼らより前に並んでいる智多勝が、二人にちらりと視線を走らせた。 普段から腹の底を見せない智多勝の視線は、なかなかに鋭く冷たい。 華煌は何事もなかったなのようにけろりとした顔をして押し黙り、吉津太郎は汗を飛ばした。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4902人が本棚に入れています
本棚に追加