紗雪 *さよならキンモクセイ

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「写真だけじゃ分からないし、気になる人にはどんどん会えばいいのよ」  他人事だと思って母は楽天的だ。娘が好きでもない人と結婚してもいいのか! と言いたいけれど、母は母なりにわたしの幸せを望んでいるようだし、昔ながらの人だから結婚こそが女の幸せだと信じている。  本当にそうなのか、わたしには分からない。結婚は二番目に好きな人とした方がいいって聞いたことがあるし、ちょうどいいのかも。そう思うことにした。  何人かに絞って、とりあえず会ってみることにした。実際にお会いしてみても強く惹かれる人はいなかったけれど、愛想のない根暗女をお気に召してくれた人がいた。  権藤(ごんどう)さんは名前こそ強そうな感じだけれど、ご本人は物静かで優しそうな人だった。優しそうというか、気が弱そうというか……。  まあ、大きな括りで優しそうというのはポイントが高い。  待ち合わせのお店まで父に車で送ってもらった。「頑張れよ」なんてニタニタしちゃって、娘が嫁ぐことになっても寂しくはないのかい?   お会いするのは二度目なので仕方ないのかもしれないけれど、連絡を頂いた時、すぐには権藤さんの顔を思い出せなかった。もう一度、お見合い写真を見て、ふんわりと記憶を辿って予習をしておいた。正直、どんな話をしたのかあまり記憶にない。三人ほどお会いしたけれど、一番印象が薄かった。  待ち合わせのお店は権藤さんが予約してくれた。
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