樹  *草も食わない男

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 電車通勤は地獄だ。  朝のラッシュ時にはいつもそう思う。  出勤するだけでかなりのエネルギーを使う。  もちろん、座れることはない。  満員電車に揺られ、憂鬱な気持ちで立っていた俺は、車内に同じ会社の若い女の子がいることに気がついた。  縁のない眼鏡をかけ、髪の毛は邪魔にならないよう、いつも後ろで三つ編みにしている。  うちの会社は個性豊かなキワモノが多いので、物静かな光永(みつなが)さんはあまり目立たない地味な存在だ。  今までずっと同じ電車に乗っていたのかは分からないが、今日初めて気がついた。  様子のおかしい女性がいるので、どうしたんだろうと思って見ていたら、偶々それが光永さんだったのだ。どうやら彼女は痴漢に遭っているらしかった。  助けてあげたいのだが、車内は満員で思うように身動きが取れない。  大声で「痴漢だ」と叫んでやろうかと思ったが、そんなことをしたら光永さんを傷つけることになるかもしれない。  駅に着いて人の流れができる度、じわじわと光永さんのいる方へと近づいていく。  やっとの思いでそばまで行くと、彼女は涙目になっていた。  世の中には本当に卑劣なことをする奴がいる。見ず知らずの男に体を触られるなんて、恐怖以外の何物でもないだろう。  彼女は俺がいることに気がつくと、気まずそうに俯いた。  俺は彼女の背後に手を伸ばし、お尻を触っているゲス野郎の手を掴んだ。
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