サラマンドラ

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サラマンドラ

 サラマンドラの咆哮が再び会場を震わせると、観客席達はパニック状態になった。煙の中から覗く鋭い牙、赤黒く厚い鱗状の皮膚、広げられた翼。観客達は慌てて出口を目指す。ケイトは想像上の生き物であるドラゴンに似たその姿を見て体を動かせないでいた。ミーナはその姿をただ睨むように見つめている。サラマンドラが芝生の上で一歩踏み出すと砂塵が上がった。サラマンドラの紅い瞳が会場を見回す。  会場の悲鳴と足音が響く中で、エリアルが弓を引いていた。大会で加護が減っているためか光の量が少ない。彼が矢を放つとサラマンドラの前足に命中した。サラマンドラの前足が崩れ声を上げるが、サラマンドラは足を元の位置に戻しエリアルを睨みつける。エリアルは力を出し切ったのかその場に膝をついてしまった。とっさにエリアルのフォロワーが肩を貸す。 「こんな時にマモノが現れるなんて運がないな」 「エリアル様。これ以上ここにいては危険です。このまま退きますよ!」  エリアルはフォロワーの言葉を聞いて小さく頷いた。フォロワーはサラマンドラを睨みつけると加護の光をサラマンドラの眉間にぶつける。サラマンドラは目を閉じ、口は地面を向いた。その瞬間にサラマンドラの口から炎が漏れる。その炎はさらに芝生を延焼させた。  残念ながらエリアルに続いて矢を放つ者は現れなかった。選手もスタッフ達も会場の門へ走り出していた。そんな中でケイトに声がかかる。 「何してるの!?あなた達も逃げなさい」  アメリアだった。アメリアとそのフォロワーはケイトとミーナに声を発すると、そのまま門の方へ走っていく。ケイトは我に返りミーナの手を引く。ケイトはミーナの手を引いた瞬間にミーナがサラマンドラを睨みながら手を震わせているのに気づいた。 「ミーナ行こう!」  ケイトがミーナの手を引いても彼女は動こうとしなかった。ミーナはケイトの顔を見ると、加護を使う。と言葉を発した。ケイトはミーナの発言を聞いてこんな時に何を言っているんだと思った。彼女の手がケイトの矢に伸びる。ケイトは反射的に体を反らせた。ミーナがケイトの顔を困り顔で見つめる。 「手伝ってくれ。頼むよ……」  ミーナから弱々しい声が漏れた。ケイトが矢に手を伸ばす。サラマンドラは逃げ遅れた二人を見つめると歯の間から炎を漏らした。漏れた炎は煙とともに空に向かってき、熱は二人の肌まで届く。サラマンドラは呼吸すると、口を開け炎を会場に向かって吐き出した。その瞬間に大量の風の加護が会場を包む。加護の光は風の壁に変わりサラマンドラの炎を天高く舞い上げた。  風と炎によってケイトとミーナは本部スタッフのいた席まで飛ばされた。ケイトとミーナの体に鈍痛が走る。熱風によって飛ばされた石畳の破片がケイトの右手に当たる。無意識にケイトはミーナに覆い被さると背中で熱風を受けていた。ケイトの右手からは血が流れていた。ミーナは意識が朦朧とし、意識が飛びそうになるのを必死で抑えている。ミーナはケイトの後ろにいるサラマンドラの咆哮を歯を食いしばりながら聞いていた。
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