本編

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                  ■ 「こいつを見てくださいよ」  研究主任のメイズは周囲にばらまかれたキーボードの束を退かしながら、もう一人がなんとか座れるだけのスペースを確保した。壁を這うコード類や倉庫のように並ぶモニターの数々のせいによって壁紙の模様さえも判別できないようになっている。無造作に置かれたように見える機材は全てに意味があり、不用心にボタンをひとつ押すこともないように細心の注意を払う必要があった。天井で光る蛍光灯が明滅を繰り返している。  私の眼前には五メートル四方のガラスケースが姿を見せた。四辺を地平線や町の稜線を綿密に再現したシートでくるまれていため中を覗くことができない。天板では縮小月が細々とした光でミニチュアの街を照らしている。  メイズが10インチのモニターを取り出した。深緑の肌から覗く5つの眼には全て名称があるらしいが、あまり興味のある分野ではないので詳しいことはわからない。 「文明崩壊直前の記憶や状況を再現して地球人サンプルの完全再現に成功しました」 「よくやった。これで研究が進歩するな」 「それだけではないんです。私が再現したシーンは地球人という個体サンプルを得るにあたってかなり貴重な部分であったみたいで、いうなればアタリを引いたみたいなんです」 「地球調査隊の成果は君の研究にかかっている側面もある。頼んだぞ」
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