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我々の銀河系の中でも、「地球学」という分野は古今東西、多くの同胞を魅了してきた。
我々ジブラルタル星とは別で、唯一文明の跡を色濃く残したまま生物だけが消滅してしまっていて、その原因についても未だ解明されていない。当時の生活様式や風俗に多くの従学舎が関心を寄せ、今も尚ロマンに思いを馳せ続けていた。数あまたの論文が発表されてきたが、それは採取されたサンプルの真偽さえあやふやな、信憑性にかけるものばかりだった。しかし、我々の研究所お抱えの地球調査隊がついに遺伝子情報の採取に成功したのだ。
メイズの複製技術によって再現されたミニチュアは実際の大きさよりも十分の一程度のスケールだが、当時の地球の一破片をここに作り直して見せたのだ。街灯から公共機関に至るまで、電気で制御できるものは全てをコンピューターで作動させることができた。
「おそらくミディとよばれる地球人が、何かしらの秘密を打ち明けようかと葛藤しているみたいですね。会話を傍受することにも成功しました」
モニターの再生ボタンを押すと、大学生くらいの女性が部屋の隅で膝を抱えていた。髪が白くて瞳孔は青緑色をしている。部屋は紫色の水で満たされていて、彼女の傍でかなり大きな魚類が同じくしていた。サイドテールにまとめた髪の毛は重力に逆らうように毛先が反力学的に浮いていて、水の中であるからなのか、普段からこういうポーズなのか。
「これまでの論文や資料で描かれた姿とは全く違うように見えるが」
「そのようですね。到来の発表を覆せるものを目の当たりにしているのかも」
「そもそも、これまで地球人のサンプルが採取されなかったのは地球上に何一切の遺伝子情報が残っていなかったからだ。髪の毛の一本さえも」
「そうですね。だから我々はかなり貴重なものを手に入れました。地球人の肌の欠片、いえ、この性質は鱗と言えるのでしょうか」
「同室にいる魚はどうしたんだ」
「冥王星産の虹鮭と呼ばれる個体のようでしたので、ミディを始動させる前に取り寄せて脳の情報を移植しました」
「アランと呼ばれる情報は残っていたのだな」
「ええ。彼女の触れた肌にその残滓が残っていました」
「どうして彼女の個体情報だけが地球に残っていたと思う?」
「そればっかりは今から調査しないといけませんね。この部屋に満たされた液体のせいなのか、それとも別の原因か」
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