本編

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 移住する手前、一般的な大学生の女の子の部屋を研究し、統計に基づいて平均的な配置に落とし込んだ自慢の一室だ。  部屋に人の意匠や人生なんかが反映されるのだとしたら、私の用意した空間はなんとも虚しい。何度も行使された選択の自由から普遍的な状態を再現する行為を自由と呼べるのだろうか。  その選択さえも自由というのは、とんちで自分自身を無理やり納得させているみたいで嫌気がさす。  プラスチックケースに詰められたCDアルバムはその年のオリコンランキング順に並べられていて、内のどの一枚にも特別な思い入れがあるわけではなかった。そもそもこのCDもデータでしかなく再生するところか歌詞カードを見ることも叶わないし、そもそもこの部屋にCDが再生できる機器はない。 私と、アランと、大量の虚構。  郊外のボロマンション、その角部屋に存在するのはそれだけだ。私は体育座りを崩さずに、アランに訊いた。 「私の体調が崩れたことは何かの悪い兆候に思えるの。想定していない要素が体内をむしばみ始めているのかしら」 「さぁな。私は自分の種族以外のことは知らん。気になるなら母に連絡を取ってみるといい」 「私がこの生活を初めて最初の誤算は、場所が変わると同じ電話番号でも知らない人につながる事なのよね」 ゴポ、とアランが大粒の空気球を吐いた。鼻で笑われた気もしたが、彼のブラックホールのような瞳を覗き込むとそのような意図は含まれていないように思える。アメジスト色の鱗が室内灯を反射して視界を瞬いた。
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