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「大変なんだから。坂本さんに【ミディさんってエスパーみたいね】って言われるんだけど、私は生まれつき、背中に目があるんだよ。特別な事だと思っていなかったから困惑してる。坂本さん、私を驚かせようと背後からゆっくり近づいてくるんだけど見えていないふりをして、更には驚いたふりまでしないと人間らしいと認められないの」
眼球も2つあることが標準とする価値観にもうんざりだ。私の種族は背中にもう一つ目をもっているのだが、そちらの視界で捉えた情報はあまり使わないように努めないといけない。音や雰囲気でわかるものよ、と誤魔化し続けてはいるがいつまでも通せるとも思ってもいなかった。
アランはまた部屋を回遊する。私が移住してきたこの都市の住民は、まるで時間に足が生えていて、食べられまいと逃げ惑うかのように通勤電車に飛び乗っている。対して目の前の冥王星産虹鮭は、まるで別世界の時が流れているかのようだ。先のことも後のことも考えず、ただ今を優雅に過ごしている。
私も将来はこんな余裕をもって日々を送りたい。上下左右する視界にまどろみさえ覚えだしていた。
「そんなこと言って、本心では期待しているのだろう」間を置いてアランが続ける。「人間はそういう生き物だと、私も学んだ」
「そんなことないよ。本当に、ただのありがた迷惑」
「不可解なものだ」
「なにが?」
「いかにも腫れ物に触るかのように扱う割には、お前は坂本さんの話をするときはずいぶんと楽しそうだな」
「私も思っている。どうにかこの異様な感覚について説明がしたいのだけど、できないのよね」
「その異様な感覚を我々多種族に共鳴させられるのが、地球人の地球人たるゆえんなのかもな」
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