『さよなら』が言えなくて

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 卒業式は特にトラブルも無く終わった。  そして卒業証書の入った筒を持ち、どちらからという訳でもなく、自然と知之と二人で帰路についていた。    口数少なく歩く高校最後の帰り道。  彼は私が東京に行くのを知らない筈だ。  どうやって『さよなら』を切り出す?  迷っているうちに、遂に分かれ道に着いてしまった。  ここでお別れ……。  言わないと……。  ちゃんと、『さよなら』って言わないと……。 「あの、さ」 「うん?」 「私、春から……東京の大学に行くんだ」 「そうか……」 「で、明日もう引っ越しなんだ」 「そう……」 「だから……だから、これで……」 「……」 「さ……」  言えない、どうしても『さよなら』と言えない。  だってしょうがない。  言いたくない。 『さよなら』なんて、言いたくない。  視界が歪む。涙が溢れそうになる。 「――っ!」  すると知之がいきなり鞄を漁りだし、中から一枚の紙きれを取り出した。  紙には『合格通知』と書いてある。  しかも、その大学は……。 「これ! 俺も春から同じ大学だから!」 「……へ?」  理解が追い付かず、情けない声が出る。 「俺、めちゃくちゃ勉強して、同じ大学受かった。本当は向こうに行くまで内緒にしておくつもりだったけど、お前のそんな顔見たら、言わない訳にはいかなくなった。だから……」  嘘、同じ大学……。 「――『さよなら』なんて、言わせないからな!」    その力強い言葉を聞いた瞬間、私は知之に抱きついていた。  涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら――。  自分でも訳が分からないほど、泣いた。
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