私の恋を手にするときは

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 凌一と春奈さんは、フォトウェディングのその日に入籍した。どうやら、ふたりの「真ん中バースデー」に当たる日だったらしい。凌一のSNSで知った。結婚の報告とともにアップされていたのは婚姻届の写真。「婚姻」の文字にそれぞれの結婚指輪が重ねられていて、何だかキラキラに加工もされている。SNSなんて、めったに更新しないくせにね。くすっと息をもらしながら、「いいね」をタップした。  タップした画面のかたさを指が忘れ始めた頃、お店に、岬さんから雑誌が届いた。以前取材を受けたときの記事が掲載されている号だ。お客さんが一段落したときに、彩さんが付箋を貼ってくれているページを開いた。  ページの半分が写真で、もう半分が岬さんの文章だった。岬さんの文章は岬さんと同じだ。どこまでも誠実で優しい。読者モデルの学生さんや私の言葉をまっすぐに伝えてくれる。ひとことひとことを受け取りながら、喉の奥が、少しだけ苦しくなった。次に出会う人とは、ちゃんと恋をしよう。そんな気持ちがわきあがってきた。その人の目を見て、その人の言葉を聞いて、その人の温度を感じて、ちゃんとその人に、恋をしよう。  来店のベルが鳴った。雑誌を閉じて、目元ににじんだ涙を払い、「いらっしゃいませ」と明るい声を出した。
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