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唇と唇が触れるまで、あと、髪の毛一本の隙間しかなかった。
近くで感じた息は熱を含んでいて、少しだけ、お酒の匂いがした。身体の奥底でわきたった血のざわめきが、頭蓋骨の内側に反響した。脳がじんと痺れて、眠るようにまぶたを閉じた。だんだんとかすんでゆく意識の中で、私は確かに、岬さんとキスをしてもいいと思った。けれど、できなかった。まぶたの裏に突然現れた凌一が、あの場所から私を連れ出してしまったから。
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