私の恋を手にするときは

1/30
193人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
   唇と唇が触れるまで、あと、髪の毛一本の隙間しかなかった。  近くで感じた息は熱を含んでいて、少しだけ、お酒の匂いがした。身体の奥底でわきたった血のざわめきが、頭蓋骨の内側に反響した。脳がじんと痺れて、眠るようにまぶたを閉じた。だんだんとかすんでゆく意識の中で、私は確かに、(みさき)さんとキスをしてもいいと思った。けれど、できなかった。まぶたの裏に突然現れた凌一(りょういち)が、あの場所から私を連れ出してしまったから。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!