私の恋を手にするときは

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               * 「ひかりちゃん、今日ね、午後から岬さんの予約が入っとるよ」  店長の(あや)さんからそう言われたとき、私は目を見開いた。岬さんとの関わりは、もう終わってしまったのだと思っていたから。あの日まで結構頻繁にやりとりをしていたアプリのトーク画面は、「こちらこそすみません」という私のメッセージで止まっている。 「二時にカットですね。わかりました」  パソコンの予約画面を見ながら、普段通りの声で言ったつもりだった。けれどもしかしたら、普段通りではなかったのかもしれない。彩さんがにやにやしながらこちらに寄ってくる。 「どしたん、岬さんと何かあったん? 何回かデートしたんやろ?」 「別っ、に、」  最悪。噛んだ。内心で焦りながら、「ないですよ」と返した。「ふぅん」と、彩さんはやっぱりにやにやしている。 「岬さんと幼馴染の子、天秤にかけよるの?」 「はあっ!?」  上司に向かって、遠慮のない声が出た。「すみません」と顔をしかめ、声のトーンを落とす。 「何でですか。彩さんも知ってるやないですか。凌一が結婚するの」 「でもさ、月9とかでよくあるやん。ギリギリになって気付くホントの気持ちとかそういうの」  顔をしかめたまま何も言えないでいると、「ごめんごめん、あんま言ったらセクハラやね……ん、モラハラか?」と、彩さんは私を解放した。  彩さんってばなんてことを、と開店準備を再開しながら思う。これから、凌一の婚約者の春奈(はるな)さんと、フォトウェディングの打ち合わせをするのに。
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