私の恋を手にするときは

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 岬さんのおかげで何とか事なきを得た――かと思ったものの、シャンプー後のヒアリングで、浅井さんはまた声を尖らせた。 「でも、どうしてもこの色がいいんです」  浅井さんのスマホに表示されているのは、赤みがまったくないアッシュカラー。ブリーチで髪の色素を抜いたあと、さらにカラーを入れるダブルカラーでないと出せない色だ。当然髪へのダメージが大きくなるけれど、浅井さんの髪にはすでにかなりのダメージが蓄積されている。これ以上髪にダメージを重ねるのは望ましくないこと、無理にダブルカラーをしても色落ちがかなり早くなることを何度も説明する。代替案としてワンカラーで近い色味が出せるカラー剤の提案もした。それでも浅井さんは納得しない。結局、岬さんの髪を乾かしている彩さんに相談し、髪へのダメージと色落ちの速さを了承してもらった上で、ダブルカラーを施術することになった。  ブリーチの用意をしているときに、お会計をしている岬さんと目が合った。すみません、と口を動かし、頭を下げる。岬さんからは、微笑みと会釈が返ってきた。
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