絲ーいとー

3/5
前へ
/6ページ
次へ
老人ホームに入ってから、祖母に会うことはほとんどなくなった。 行っても私のことをわからないのだから、辛くなるだけなのだから。 悪い言い方をすれば、私は自分のために逃げた。 認知症を(わずら)い、記憶を失った祖母。 私の知っている祖母と、今の祖母は違いすぎた。 それに耐えられなかったのだ。 そんな私が久しぶりに祖母に会いに行ったのは、祖母の容態が良くないとの連絡を受けた母から言われたから。 全身状態が悪く、もっても一週間だと主治医から話があったらしい。 その日の夜、私は祖母に会いに行った。 老人ホームの職員に案内されて入った部屋。 祖母はベッドの上で静かに寝息を立てていた。 一目見て、祖母はもう、いつ亡くなってもおかしくない状態なのだと悟る。 浅い呼吸。声をかけても、名前を呼んでも反応はない。 眠り続けることで命を維持しているのだ。 血の気の少ない頬に触れる。 ほんのりとあたかい体。閉じたままの瞼。 そんな祖母を見ているだけで、じわりと涙が滲んだ。 付き添ってくれた叔母と共に職員に挨拶をして老人ホームを出る。 泣き崩れそうになるのを耐えて、自宅へ帰った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加