いつかまた、会おう

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いつかまた、会おう

 年が明けて元日、佐竹は近所の神社に初詣に来ていた。十円玉を賽銭箱に投げ入れ、ガラガラと鈴を鳴らす。 「今年も平穏無事に過ごせますように」  佐竹は手を合わせてただただそれを願った。何もかも失い地べたを這うような生活をしていた時期がある佐竹にとって、これ以上もこれ以下もない願いごとだ。鳥居の前で深く一礼をして神社から立ち去ろうとしたそのとき、佐竹のスマートフォンが鳴った。送られてきたのは1枚の写真で、送り主は勿論宮下だった。早川先生を囲む8人の同期。顔にしわが増えたり髪の毛が薄くなったり、逆に白髪がぽつぽつと見えたりもしているが、20数年前の面影は皆残ったままだ。 「新年あけましておめでとう。とりあえず年末の同期会で撮った写真だけ送るわ。お前に会いたい気持ちは変わらないけど、無理はするな。お互い生きていれば、会えるときは自ずと与えられると思っているから」  宮下は写真に続けてこういったメッセージを送ってきた。佐竹はこれに対し、「ありがとう」と言っているウサギの絵柄のスタンプを返した。  神社からの帰り道、おみくじの売り場を通りかかった。佐竹は百円玉を取り出し、1枚引く。そこには  中吉・自らに対し正直に、そして無理はせぬこと。さすれば自ずと道は開かれる  と記されていた。 【終】
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