同期会の誘い

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同期会の誘い

 午後8時、佐竹は職場のロッカールームに戻ると、油まみれになった作業服と肌着を脱ぎ捨てた。佐竹は現在41歳。ポテトチップスの製造会社で派遣社員として働いている。秋の行楽シーズンに向けて生産はピークに達しており、連日に渡って残業の日々が続いている。佐竹が配属されているのはじゃがいもを油で揚げる工程。酷いときには室温が40度近くにもなる中での作業は着実に佐竹の体力を奪っていくが、生きるためにはギリギリの線でも踏ん張らねばならない。  更衣室にあるシャワーで体を洗い流す。お世辞にも勢いがいいシャワーとは言えないが、たまりにたまった汗と油と疲れを持ったまま家に帰ることを考えれば、浴びられるだけマシである。タオルで入念に汗を拭き取りヨレヨレのジーンズと使い古したTシャツを身にまったそのとき、佐竹のスマートフォンが鳴った。スマートフォンを取り出すと、1通のメッセージが届いていた。高校の部活の同期、宮下からだった。宮下は高校卒業後1年の浪人期間を経て早稲田大学の法学部へと進学し、今は地元に戻って法律事務所のボス弁をやっている。 「佐竹、元気にやってるか?俺達、もうそろそろ卒業して20年だろ?年末にでも同窓会、やろうかな?と思ってて。顧問の早川先生ももう70を超えてるしさ、来ないか?」  メッセージを読んだ佐竹はため息をつき、そっとスマートフォンをポケットにしまった。 ーーどうやって断ろう?  佐竹の頭に最初に浮かんだのは、このことだった。
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