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未熟だった2人
「うん。正直に話してくれてありがとな」
宮下は何かをそっと包み込むような声でそう告げた。
「生きるのって、なかなか大変だよな。この仕事をしてると本当に思うよ。多重債務で苦しむ人も沢山見てきたし、DVに怯える人からも何度も依頼を受けたしな。刑事裁判にかけられた被告人だって、壮絶な人生を歩んできた人は山ほどいる」
しみじみとそう紡ぐ宮下。佐竹は黙り込んで耳を傾ける。
「色々大変だけど、お前はお前らしく生きていいと思うよ。そりゃあ迷惑をかけることだってあるだろうけどそんなのはお互い様だし、お前の自己決定で何が起こったとしてもそれが全部お前のせいって訳じゃない。世の中に100対0でどっちが悪い、なんてものはほとんど存在しないのさ。だから、お前が同期に会いたいなと思ったら連絡くれ。俺は待ってるから。じゃあな」
「待って。ひとつだけ、聞きたいことがあるんだ」
宮下が電話を切ろうとした矢先、佐竹が声を上げた。
「どうした?」
「宮下さ、さっき言ってただろ?僕が辞めたいと思ってるの知ってたって」
「ああ、言ったな」
「どうしてそのとき、僕に声をかけなかったんだ?」
「そんなの当たり前だろ?」
「そうだな。1人欠けただけでも声量が……」
「違う」
宮下が佐竹の言葉を遮った。
「お前との縁が切れるのが怖かったんだよ。俺は俺で、未熟だったんだ」
「……そうか」
「ごめんな。ただきっと他の同期の奴らも、お前との縁が続くことを願ってると思うぜ」
「……ありがとう」
佐竹はそう告げると、通話終了のマークをタップした。
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