エピローグ

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エピローグ

人間はやはり脆かった。 言葉で抉られた傷口は簡単に再出血し壊れる。暴力で植え付けられた記憶はいつまでも残る。そして、過去も時間も変わることはない。 誰もが弱く、誰もが脆い。学校という社会の縮図の中でも、強者は誰かと共にいなければ成り立たない。弱者はただひたすらに弱い。 結局皆、何かに弱みを握られている。そんな生き物達なのだ、人間というのは。 羽鳥皓大も、きっとそうだった。表向きを強気に見せて、裏ではその表を維持するのに必死だったのだ。その人間性が社会の空気に汚染され、影響され、そうして形成されたのが彼だった。 そんなことを考え始めたら、もう誰が加害者で誰が被害者なのかがわからない。その線引きができなくなる。頭が痛む。それもこれも他人のせいにできたら、どれほど楽なのだろうか。 「……ふ」 軽く笑ってみせる。そうだな───そんなことを考える人間が湧いて溢れて咲き乱れて、そうしてできたのが今の社会だ。 自分は何も悪くない、悪いのはいつも他人だ。でもその他人だって、悪いのはいつも他人だと思っている。そんな輪廻の果てには、ゴールなどない。ゴールがないから、救いがない。誰も……救われない。 「───」 亡骸から距離を置いて、僕は拳銃を手にして屋上を歩く。虚無に塗れた三年間、その原因をこの手で殺めた。 やり切った達成感?そんなものはない。あるのはただの空虚な自己満足。でも、もうそれでもよかった。 「……ふぅ」 色濃くなった橙色の闇に、僕は向き合う。 そして、拳銃を自分の頭に突きつけて……微笑む。 もしも弾切れじゃないのなら、僕はここで死ぬ。でも弾切れなら、僕はまだ神様とやらに生かされることになる。 ロシアンルーレット。それも、最悪の。 そんな馬鹿げた儀式を始めようと、僕はだらりと引き金に指を置いた。そして躊躇いもなく、その指を押す───。 卒業。その二文字が最後に頭に浮かんでいた。 ───これが僕の、独りだけの卒業式だ。
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