婚約破棄です

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 「パールミルア。君との婚約を破棄したい」  私は、伯爵令嬢・パールミルア。その私に婚約破棄を申し出たのは、公爵子息・ライアネットー様。ここは、ライアネットー様のご生家である公爵家のサロン。私は態々呼び出された挙句に婚約破棄を言い渡された、という状況。理由を聞くも何も、まぁ、ライアネットー様の隣で彼の腕に身を寄せているご令嬢を見れば、馬鹿でも解る。  というか、この状況に、公爵家の執事や侍女達が表情を変えずに、顔色だけを変えている。まさか、婚約破棄まで言い出すとは思っていなかった、というところか。  「畏まりました」  「良いのか?」  「良いも悪いも、それがあなた様の願いならば、私が叶えないわけが無いでしょう?」  表面上は穏やかに私が言えば、ホッとした表情をあからさまに浮かべるライアネットー様と、嘲りの笑みを浮かべる子爵令嬢・ナルミネア様。彼女が、社交界でも指折りの麗しの公爵子息様を射止めようと、散々アプローチをして来たのは知っていた。  ライアネットー様がそのアプローチに満更でもない表情に変わっていくのを、ただ見て行くしかなかった。  「大好きです」  私は、ただそれだけを口にして来たのに。彼は、ナルミネア様の「愛してる」の方が愛情表現として大きく深い、と思うようになっていたらしい。私の「大好き」では、足りないのだ、と不満を表情で告げていた。  「そうだな。君はいつでも俺の願いは聞き入れてくれていた。じゃあ構わないな。まぁ君の愛情はその程度だったんだろう」  ライアネットー様。あなた様は、いつでも私を省みないのですね。「愛してる」と言わなければ、愛情表現が少ない、と思うあなた様。でも、そのあなた様から私は一言も無いのですわ。  「俺も」とか「大好きだ」とか。  自分は無いのにどうして私の気持ちを“その程度”と決め付けてしまわれるのでしょう。でももう、今更何を言っても意味が無い。だったら私は、彼の最後の願いを叶えるしか無い。  「お父様には私から話しますので、ライアネットー様も公爵様にお話をお願い致しますね?」  「当然だ」  「では、私はこれで失礼しますわ」  「いや、もう一つ。俺の願いがある。君が受けた上位貴族の教育を彼女に、ナルミネアに教えてやって欲しいんだ」  「それはお断り致しますわ。私はあなた様の最後の願いである婚約破棄を受け入れました。そこで、あなた様の願いは終わりです。これ以降、私は婚約者では有りませんから受け入れるつもりはありませんわ」  「何故! 君は、俺の願いを叶えてくれていただろう!」  「婚約者として、大好きなあなた様の願いだから受け入れて参りました。でももう、婚約者では無い私が、あなた様の願いを叶える必要はどこにも有りません。私達は全くの他人ですもの」  「君の俺への愛は、やはりその程度なのか! 俺を愛していない君では、そんなものなのだな!」  私はこれ以上、ここに居る意味を見出せず、黙って帰る事にした。馬車の中で私は涙を落としていく。貴族の令嬢として、あるまじき事で有るけれど。それでも今くらい、泣きたかった。
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