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後日。私とライアネットー様との婚約破棄が書面上でも成立し、私は伯爵家の厄介者と化した。元々私は1人娘で、本来なら婿を取る立場だった。ところが、ライアネットー様が6歳。私が5歳で初めて出会った時、彼が私と結婚する、と宣言したのだ。彼が公爵家の次男や三男なら良かったが、長男であったために私は嫁に行く事になってしまった。
それ故に父は分家から養子を迎えた。私の3歳年下のベルノルーニである。ベルノルーニは伯爵家の跡取りとして育てられたわけで。それなのに、11年経って、私が婚約破棄されてしまった。邪魔な事この上無いわけで。
「ベルノ、ごめんね。私、姉失格だわ」
「ミルア義姉さん、何を言ってるの。ミルア義姉さんは何も悪くないでしょう?」
「でも。ベルノは本当の家族と離されて、我が伯爵家に養子として入った。本当の家族と離されたのは辛かったはずなのに、頑張ってくれて。2年後には伯爵家の跡取りとして社交界デビューをする事にもなっていたのに、婚約破棄をされた傷物の義姉が居るだけで、ベルノの社交界デビューも傷ついてしまった。良い方を見つけて婚約をしなくてはいけないのに。良いご令嬢との縁が無くなってしまうわ」
「馬鹿だなぁ義姉さん。そんなの気にしなくて良いよ。まだ2年も有るんだから。2年も経てば状況は変わるよ」
落ち込む私をベルノは慰めてくれる。なんて優しい出来た義弟なのだろう。頭を撫でてくれる義弟の手の暖かさに慰められた。父も母もライアネットー様の仕打ちを怒ってくれたけれど、公爵家の意向に逆らえるわけが無くて。私を腫れ物扱いする。……領地にでも引っ込もうかしら。
ちなみに、ライアネットー様とナルミネア様の話は、さすがに社交シーズンでは無い今は聞こえて来ない。でも、シーズンが始まれば、あっという間に私との婚約破棄が噂され、ナルミネア様とライアネットー様がご婚約された事は広がるだろう。
公爵様からは、謝罪の手紙を頂いたけれど、ライアネットー様は長男として公爵様の跡取り教育を受けている。だから許して欲しい、と。そのかわり慰謝料を支払うから、と。慰謝料なんて要らない、とお父様には話した。だって私の恋心がお金に変わるような気がしたのだもの。
彼が望んで婚約したのに。少しずつ少しずつ好きになっていった私の恋心を、彼は「愛してる」と一言、言われただけで壊した。
「ベルノ。ライア様は、私に言ったのよ。私がライア様の言う事を全部聞いてくれるから、私と結婚するって。だから私、ライア様の願いを全部叶えたいって思ったのに」
「うん。そうだね」
「だから婚約破棄も受け入れた。私の大好きって恋心を彼は壊したのに。それなのに、上位貴族の教育を教えてあげろ、なんて無理だわ。彼を私から奪ったのに、何故そんな願いを叶えてあげなくてはいけないの? それなのに彼は、ライア様は、私の気持ちをその程度だ、と。否定したのよ……」
ベルノは、静かに私の想いを聞いてくれた。ただ聞いてくれる。それだけがこんなにも救われる事だなんて。ポトポト落ちる涙を拭うだけの力はまだ湧かないけれど。早く立ち直って、この優しい義弟の障害である自分をなんとかしなくては……と私は決意を固めた。
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