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時は直ぐに経過していく。あれから1ヶ月が経ち、国王陛下主催の夜会が開催される。社交界デビューを果たす子達が主役の夜会であり、シーズンの開始でもある。去年の私のデビューには、婚約者であるライアネットー様がダンスを踊ってくれた。でも今年は有り得ない。去年と同じくお父様にエスコートしてもらう。
婚約者が居るなら婚約者がエスコートするのが当たり前なのに、お父様にエスコートされる。つまりそれは……と皆様が理解してしまうのだ。でも仕方ない。例え嘲笑されようとも私は伯爵令嬢。国王陛下主催の夜会に不参加など許されない。私はあの華やかな雰囲気の裏で交わされる足の引っ張り合いで、真っ直ぐに立っていなくてはいけない。
お父様と再来年デビュー予定のベルノルーニの為にも、これ以上恥を欠くわけにはいかないのだから。
そうして私は陰口を叩かれ、嘲笑われる夜会に参加した。「麗しのライアネットー様から婚約を破棄されたらしくてよ」と聞こえる声で話される。「私なら恥ずかしくて出て来られませんわ」とも聞こえてくる。「まぁあの平凡な容姿では、ライアネットー様に飽きられても仕方有りませんわ」などなど。
お父様も聞こえているのだろう。私を痛ましげな表情で見てくる。でも私は微笑んで「気にしていませんわ」としか言えない。これ以上、お父様に心配させるわけにはいかないのだ。お母様も私の後ろから心配そうな視線を向けてくれる。だけど、ここからは、お父様とお母様は挨拶回り。私は1人にならなくてはいけない。きっと、お父様もお母様も私の事で色々言われるだろう。だからせめて、私は1人でも大丈夫だと見せなくてはいけないのだ。
ダンスのお相手は居ないし、まだデビュタント達も居ない。壁の花になっても、背筋を伸ばして、私は立ち続ける必要がある。やがて陛下がお出ましになられて、夜会は始まった。デビュタント達は子息も令嬢も初々しい。見守っていた私の視界の隅に、ライアネットー様とナルミネア様が2人睦まじく寄り添っている。
未だ、私の傷は癒えていない。
それでも。気にしてはいけない。ナルミネア様が目敏く私に気付いて、ライアネットー様を連れて歩いて来た。毅然とした態度で私は挨拶をしなくてはいけない。周囲も気づき始めた。私達を窺っている。そして私は、ゆっくりとライアネットー様とナルミネア様にご挨拶をさせて頂いた。
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