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ライアネットー様は鷹揚に頷かれたけれど、ナルミネア様は居丈高に挨拶も無しに言葉を放ってくる。
「私なら恥ずかしくて出て来られないのに、良く出て来られますねー。さすが、ライアネットー様の事を愛しておられないだけ有りますわ」
わりと大きな声なのは、多分周りに聞かせたいのだろうけど、そのせいで空気が変わった事に、ナルミネア様は気付かれただろうか。大体の貴族は政略結婚が多い。恋愛で婚約する事の方が稀。だから、何を言っているのか、と皆様は思われているだろう。
私達の婚約も政略結婚なら恋愛感情など無くてもおかしくないし、結婚してから互いを愛していく夫婦もいる。だから、ナルミネア様の嘲笑の意図が全く分からない方達が多いはず。
「そうだな。ナルミネアに上位貴族教育を教えてやってくれ、と願った俺の言葉が聞けないんだから、パールミルアは俺の事を愛していなかったんだよな」
わざとらしいナルミネア様の言い方。だけどライアネットー様は、私がずっと願いを聞き入れて来たから、そのお願いを聞き入れない私が本気で自分を愛してくれていない、と思って言ってる。それでも私は表面上は穏やかに2人と話さなくてはいけない。
「私に、ライアネットー様に対する愛情が足りず、申し訳なく思っております。お二方は深い愛情で絆を結ばれたのでございましたね。お幸せになって下さいませ」
私が2人に頭を下げれば、それで胸がすいたのか、ナルミネア様がライアネットー様を促して去って行った。私は再び壁の花に戻るが、先程とは空気が変わっている事に気づいた。やがて、去年一緒にデビューを果たした友人達や子息達が私に近寄って来た。
「パールミルア様、婚約破棄の事情って、今の話、ですの?」
「ええ」
友人に尋ねられ、私は少し困ったような表情を浮かべつつ控えめに肯定する。
「は? ライアネットー様って、公爵家長男だよな? 次期公爵様だよな?」
「ええ」
とある子息が尋ねて来るのでこれも肯定する。
「随分素敵な方ですのね。婚約破棄を告げた元婚約者に、自分の新しい婚約者の教育をお願いするだなんて」
友人がクスリと笑いつつチクリと刺す。要するに、ライアネットー様って頭の中がお花畑なんですのね、と言っている。
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