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第1章
何かに怯えたようなうすい灰色の空に覆われ、ヒンドゥークシュ山脈が街に迫っています。
アフガニスタンの首都カブール西部の大通りの十字路コティサンギは、旧型の古い乗用車や荷物を載せたトラックなどが行き交い、人々は車の合間を縫って往来します。
信号も横断歩道もないため、さまざまな音のクラクションが絶えず響き、騒めきも染みついたまま地鳴りのように止みません。
少年は、以前この十字路によく現れた幼馴染みのひとりの少女を探しに来ました。
1年前まで、少年と彼女はこの往来の盛んな十字路でスリをしていました。
当時少女は、髪は顎ぐらいの長さでいつもむらさき色の上下の服に白い袖のないカーディガンを羽織っていました。
以前住んでいた街外れの石造りの家も訪ねましたが、もう少女も母親の姿もありません。
別のところに住んでいるのか、もうこのカブールを離れてしまったのか?
もはや探し出すことはとても難しいし、手がかりは、あのスリをしていた大通りの十字路コティサンギだけです。
1年前、少年は家族とともにアフガニスタンの東部のダラエヌール渓谷の谷間の村に戻りました。
日本人のN医師を現地代表とするNGOが、大河川クナール川から灌漑のための24キロにも及ぶ用水路を完成させて新しいコミュニティができあがり、村を去り難民となった人々や反政府組織の兵士になった男たちが帰って来たからです。
新しい村では、灌漑用水路からの水で砂漠化で荒涼した大地に緑が蘇り、畑が再生されました。
アフガニスタンの烈しい太陽の光の下で、人々はあらためて笑顔を取り戻し農業を始めています。
少年はその時、少女に一緒に帰ろうと言えませんでした。
少女の父親が、ちょうど街で自爆テロに巻き込まれて亡くなったばかりで、とくに母親が狂ったように悲嘆し、とても話す状況ではなかったからです。
しかし少年は今でも、淡い思いを抱いていた少女にどうしても村に帰ってもらいたいと願っています。
両親から1週間の約束をもらってカブールまで山を越えて探しにやって来ました。
少年は、街の廃虚になった石造りの建物に寝泊まりしながら、期間ぎりぎりまで根気強く探すつもりです。
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