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アルバイトを転々として、俺はなんとか食いつないだ。
その度に住処も変えたので、
最初の数年はおふくろがこっそり近況を知らせたり
仕送りをしてくれていたが、それも途絶えた。
そんなつまらない矜持とは裏腹に、俺は故郷を想っていた。
疲れ切ってカップ麺をすすり、泥のように眠りにつく数分か数秒、
俺は故郷の美しい風景を夢見た。
風になびく稲穂の金色、ウシガエルの低音の響き、
道に舞う色とりどりの落ち葉
真っ白な雪の深さ、土の香り・・。
そして赤い頬の大きな瞳のユキ。
肩より少し長い髪を後ろにひとつに三つ編みで結わき、
眉より少し短い前髪をいつも引っ張っていた。
思い浮かぶのはその屈託のない笑顔。
小さな白い手。
戻りたい・・。
あの頃にもう一度・・帰りたい・・。
あんな風に出てきてしまって、ユキはどう思っただろう。
狭い田舎の世界で、肩身の狭い思いをしているんじゃないだろうか。
せめて…幸せになってくれているといいのだが。
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