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夜の居酒屋のバイトでふと手が止まった。
俺の故郷の名前が客のひとりから聞こえたのだ。
厨房からでて、その客のそばに近づく。
「そろそろかなぁ。早く始めないとまた川が氾濫するからなぁ。」
俺はたまらず声をかけた。
「すみません。その村、俺の故郷なんです。何かあったのでしょうか。」
客は驚いたように俺を見上げた。
「ああ、そうなんだね。前の台風の後の川の氾濫で村が壊滅したしただろう?
その後、あそこにダムを造れば
今度は被害が減るんじゃないかという話がでていてね?」
壊滅した・・?俺は全身から血のひく音が聞こえた気がした。
その客に頭を下げると、俺はふらふらと外にでた。
店長が追ってきて俺の腕を掴んだ。
「おい。大丈夫か?死人みたいな顔色だぞ?」
店長は自分のポケットをごそごそすると、財布から五万円をだした。
「話は聞こえた、これを持ってすぐに帰れ。
いいか?絶対また戻ってくるんだぞ?」
俺は店長の真面目な顔を見て、俺の手に握らされたお金を見た。
店長は俺の制服の前掛けをするすると外すと、ぽんと肩を押した。
「後悔のないようにな。」
俺は深く礼をすると走り出した。
そのまま列車に飛び乗ったのだ。
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