凍瀧(いてだき)

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俺はそっと扉を叩いた。 応えはない。 もう一度、ガラスの所を叩く。 「こんにちは!いらっしゃいますか!」 と、ガラスに女性の影が映る。 すうっと引きあけられた隙間から覗き込むのは・・ 「ユキ!」 ユキの目がスッと細められると、にっこり笑顔になる。 「おかえりなさい。」 「ユキ・・ここにいたんだね。 ごめん・・。俺・・ずっと謝りたくて・・。」 ユキは子供の時のように俺の腕を掴んで、ぐいぐいと家の中に引っ張る。 「おじさんとおばさんにも・・謝りたくて・・。」 俺たちはもつれるように家の中に入った。 ユキは(とこ)の間に俺を連れて行くと、俺を見上げた。 床の間には仏壇があって、仏壇の前に ユキを囲んでおじさんとおばさんの笑顔のスナップが飾られていた。 「お二人とも・・亡くなって・・。」 俺は絶句した。 ユキは悲しそうに頷いた。 「台風の後の川の氾濫でね、車に乗ったまま流されてしまったの。」 「ごめん・・そんな時に‥俺何も知らなくて・・。」 俺はおじさんとおばさんに謝ることも出来なかった・・。 ユキを俺は抱きしめた。 「ごめん・・。本当に・・ごめん。」 ユキの手が俺の背中を優しく撫でている。 まるで俺がいるのを確かめるみたいに。 「ううん。いいのよ。これも運命だったと思うの。 誰が悪いわけじゃないわ。」 ユキの小さな細い指が俺の背を抱きしめた。 「ありがとう。帰ってきてくれて。ずっと大好きよ。」 俺は号泣した。 こんなに人が愛おしいと思ったことなかった。 もう離すものか。 俺はしっかりユキを抱きしめた。
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