凍瀧(いてだき)

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顔に日があたり目を覚ました。 ひどく寒い。 「ユキ・・?」 いつの間に眠ってしまったんだろう。 気付くと体がじっとりと濡れていて、俺は慌てて体を起こした。 俺は床が濡れて湾曲している廃屋に横になっていた。 泥の匂いが鼻につく。 上を見上げると天井が無くなっている。 家財道具が一か所に固まって置いてある。 その中にうつぶせに倒れた仏壇があった。 嫌な予感しかしないが、俺はそっとそれを起こして中を見た。 位牌が三つ、抱くようにして小さな写真の上に転がっていた。 震える手で、位牌(いはい)をひとつずつ裏返す。 おじさんとおばさんと・・ユキのものだった。 俺は叫んでいたのだと思う。 ユキの位牌をしっかり胸に抱いて、廃屋を飛び出すと 実家までの二十分を走り続けた。
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