凍瀧(いてだき)

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「開けてくれ!俺だ!開けてくれ!」 俺がドアを叩きながら叫ぶと、ものすごい形相の親父がでてきた。 「今頃なんだ!さっさと帰れっ!」 「親父!お願いだ、教えてくれ!ユキは・・ユキは・・どうしたんだ!」 親父は扉を開くと俺を見つめた。 手の中の位牌を見て小さく呟いた。 「そうか。家に行ったんだな。」 そして扉をそのままにくるりと家に入ったので、俺はついて入った。 奥からおふくろが出てきて、何も言わずに俺を抱きしめた。 親父は椅子に座ると、話し始めた。 「台風で川が氾濫してな、ユキさんの所は車で逃げようとしたらしい。 だが濁流にのまれて、俺が行った時にはもう・・。 あれだけニュースになっていたのに、何故その時戻ってこなかったんだ・・。」 「ごめん・・。本当に俺・・テレビもないし・・知らなくて・・。」 親父がため息を()いた。 「ユキさんはまだ生きていたんだ。 だが二週間ほどしてやはり亡くなってしまった。」 俺は嗚咽(おえつ)をもらした。 なんてことだ・・。なんてことだ・・。 「その間俺たちがつきっきりだったんだ。お前がいたら・・と、どんなに思ったか・・。」 親父は苦渋(くじゅう)に満ちた声で言った。 お袋が一通の手紙を俺に手渡した。 「これはユキさんが最期にお前にと書いたものだよ。 私たちも中身は知らない。 どんなにキツイ事が書いてあっても、ちゃんと受け止めてあげるんだよ。」 俺は震える手で封を切った。 懐かしいユキの字だ。 ひとつひとつの言葉を指でなぞり、俺は読んだ。 俺は顔を(おお)って号泣(ごうきゅう)した。 落ちた手紙を親父が黙読し、おふくろに渡した。 おふくろも嗚咽(おえつ)を漏らしてユキちゃん・・ユキちゃん・・と繰り返した。 親父も目頭を押さえている。
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