●第九章●

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匠はショックを受けた顔をして私を見下ろし、そしてチラッと胸の辺りを見ていた。 「そんな格好で抱き着かれたら、誰でもそう思うだろうが」 この盛大なため息は、自分の心を落ち着かせているのかな。 ちょっとだけ私の胸を見たあとは、目を瞑って何も見ないようにしている。 「……素っ気なくされると寂しいんだけど」 俯いて落ち込んだ声を出すと、匠がこっちを見た気がした。 ただ、私は恋人同士らしく、くっ付いてまったりした時間を過ごしたかっただけだ。 別に高望みなんてしない。ドラマや映画で観た、恋人同士の甘い時間を匠と過ごしたかっただけ。 それを望んだだけなのに、どうして男ってすぐにそっちの方向に思考が働くのだろう。 今だって、煽った気なんかさらさらないのに、すぐにそういう風に考える。 私はしゅんとした顔をして一人布団に潜り込む。 すると、匠は後頭部を掻き、私の隣にもう一度横になった。 そして自分の腕の下に私の頭を乗せて、強引に引き寄せる。
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