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「闇鍋しようぜ!」
学生時代、アパートで独り暮らしをする友人の一言で、俺達4人は4畳半の狭い空間に四角テーブルとコンロを詰め込み、鍋を囲むようにして陣取った。
ゴクリと生唾が飲み込まれる音が聞こえた。
俺たちの足元には不透明なレジ袋やタッパーが用意され、そこには当人にしか知らない何かが入っている。
まさか食べられないものを持ち込むような奴はいないだろうが、人の物にケチつけられない程度には俺が持ち込んだ食材もエグイ。
納豆、キムチ、スライスチーズの腐臭トリオ。
『若干やりすぎかも・・・?』二の足を踏む心をそれこそタッパーの様に蓋をして、『せっかく闇鍋をやるのなら行けるところまで!』そんな思いで持ってきてしまった。
「よっしゃ、じゃあ始めるか!」
家主の男が水を張った鍋をセットし、部屋の電気を消したところで、思い思いに具材を鍋へと投入する。
ポチャン、ボチャ、ブリュ、ベチョ。
普通じゃ考えられないような効果音もちらほらで、俺は不安を募らせながらも追従して鍋へとぶち込む。
「うわっ!くっせ!だれか絶対納豆持ってきてるだろ!」
過敏に匂いに反応する左隣の男。
俺は適当に同調して別の友人に罪を擦り付けておいた。
さて、そんなこんなで具材はすべて投入され、一度蓋をして火にかけ、
10分後にはなんとも言えない匂いを放ちながらも件の闇鍋が完成した。
「・・・まじでこれ食うの?」
「当たり前だろ!さっさとよそえよ!」
家主の男が周りを急かし、俺は恐る恐る鍋の中身を掬い自分の皿に取り分けた。
そして、最初はスープからみんなで一気に行こうぜというアイディアのもと、俺たちはタイミングを揃えて口へと運んだ。
「・・・あれ?意外とイケるんじゃね?」
俺は感想を述べた。
「うん。全然食えるな」
周りも同意見だった。
美味しくないことには間違いないが、匂いにさえ目を瞑れば決して食べられないほどではない。
結局、その後には鍋の具材を当てるちょっとしたゲームが始まり、なんやかんやと俺たちは食べつくしてしまった。
「いやー、食った食った」
「ああ。思ったより盛り上がったな」
正直、闇鍋なんて悪乗りで終わるだけだと思っていたものだから、僕もこの結果には大いに満足していた。
「ていうかお前マジで何入れたんだよ!?」
ただ、途中から始まった具材当てゲームにおいて俺たちは全員の具材を見事言い当てることができたが、不思議なことに家主の具材だけは全く当てられなかった。
「秘密だよ!秘密!」
家主は何度聞いても頑なに答えを言わず、俺たちもそれ以上追及するのが面倒になり、闇鍋はお開きとなった。
楽しかった。それは間違いない。
ただ、俺だけは家に帰った後も家主の部材が何だったのか気になり続けていた。
それというのも、大成功で終わった空になった闇鍋を、まるで苦虫を噛みつぶしたような視線で見ていた家主の表情が頭から離れないのだ。
言いたくても言い出せないようななんとも言えないあの表情。
俺は妙な胸騒ぎを感じ、どうしても教えてほしいと家主にラインを送った。
1分いや1分もしなかっただろうか?
小さな犬が土下座をするスタンプとともにラインに返信が来た。
「今日はごちそうさま!またやろうな!」
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