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「おい、北斗っ!」
肩を掴まれて、目を覚ますと――列車は止まっている。しかし、見覚えのある目的の駅ではない。窓外に張り付いた空は灰紺色に塞がれ、しかも強い雨音が屋根を叩いている。
「ここ……どこだ?」
状況の異常さに、眠気は霧散した。列車内には、他に乗客の姿はない。
「駅員さんに聞いたら、終点の1つ前の駅だって」
「ええっ?!」
頓狂な声を上げたのも、仕方あるまい。僕らが下りる予定の駅は、終点の6つも前だ。2人とも熟睡していて、通り過ぎていた。
「今から戻る列車はないって。猿渡には知らせておいたけど、あっちもテントが水没して、今夜の観測は断念したそうだ」
「……で、何で止まってんだ?」
動く気配のない列車の様子に、窓の外を改めて覗く。無人駅らしい構内に人影は無く、激しい雨音にじわりと不安が滲んだ。
「この先の川が増水していて、運転見合わせだって」
「これから……どうしよう」
「駅員さんが、当分止まってるから乗っていていい、って言ってくれた」
「……そっか」
だけど、動き出したら、どうするんだろう。終点は、ここより田舎なんじゃないのか。土砂降りの真夜中に無人駅で放り出されるなんて、笑えない。
「多分、ここで夜明かしだな」
僕の心の声が聞こえたみたいに、征臣がスマホのお天気アプリの画面を見せる。濃い青色の雨雲は、この後6時間先まで途切れない。雨が止んでも、川から水が引くには時間差がある。その意味では、彼の読みは的確だろう。
「ついてねぇな」
諦めて、傍らのスポーツバッグからスナック菓子を出す。状況を把握したら、途端に腹が減ってきた。
「食う?」
「おう」
止まない雨音は、気分を滅入らせるかと思ったが、実際はそうでもなかった。受験生らしく、問題を出しあったり、講習でイマイチ飲み込めていなかった部分を確認し合ったりした。
その内、真面目な時間にも飽き、テキストを片付けると、バッグを枕に、だらしなく身を倒した。
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