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人々は皆、温泉街の奥にあるスキー場の方向を見ている。
「一体、何――」
ドオオォ……ン……!
「わっ!」
急な爆音に、思わず身をすくめた。
征臣の手が、僕の肩を引き寄せる。
「始まるぞ。見てろ」
ヒュウゥウ……、パアァ……ァン!!
「――すげ……」
大きな花火が、白銀を照らす。確か、あれは菊の花。色取りどりの花が咲き、夜空も地上も染めていく。光の競演に、言葉を失う。
「綺麗だ。ありがとう、征臣」
素直な感想を口にすると、彼はゴソゴソと首のマフラーを外した。僕と自分に片方ずつ端を巻き付け、鼻の下まで覆った。彼の香りと温もりが移る。照れ隠しの不器用さが――嬉しい。
僕は、彼の手を探す。柔らかな肌触りに視線を落とすと、見覚えのある革の手袋をはめている。
「これ――どうして?」
冷たい指先が、少しでもあたたまるように――。
そんな想いで、クリスマスに選んだプレゼント。あの夜、苛立ち紛れに、レストランに置き去りにした筈なのに。
「あの店を予約したのは、俺だぞ? 忘れ物だと連絡が来た」
……そうだよな。言われてみれば、当たり前か。
「あの時は、すまなかった。暖かい季節になったら、また星を観に行こうか」
毛糸越しの、ややくぐもった低い声。
「うん。またローカル線に乗って行こうよ」
繋がったマフラー。それを少しだけ下げて、征臣は僕に口づけた。
【了】
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