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「……すみません」  テーブル上の綺麗にセッティングされた、食器とカラトリー。耐熱ガラスに入った紅いキャンドルは、いつの間にか炎の周りの蝋を溶かし、小さな湖が出来ている。  片手を挙げて、ウェィターを呼ぶ。 「ワインを――いえ、グラスで」  予約していたであろう高価なコース料理には手を付けず、自腹でロゼワインを1杯だけ空けて席を立つ。椅子の上まで垂れたテーブルクロスに隠すようにして、椅子の上に紙袋を置き去りにした。赤いラッピングバッグに、金のリボンが付いた、小ぶりの紙袋だ。  グラスワインの会計を終えると、真っ直ぐホテルの外に出た。息が白く凍る。  21時を回り――まだ特別な浮かれ気分の夜は、恋人達には入り口だ。でも独りで歩くには、もう寒い。  並木通りを飾るLEDの青い光の壁。見上げて足を止める人々の間を縫うようにすり抜け、駅までの道を早足で進む。  ワインが効いている内に、家まで辿り着かなくちゃ。ほろ酔いのフワフワ気分が覚めれば――虚しさに押し潰されそうだ。  電車の窓に映る自分の姿を見ないようにしながら、5つ目の駅で降りる。そろそろ酔いも引いてきた。このままじゃ、眠れない。近所のコンビニに寄り、缶チューハイを適当に選び、レジに向かう途中で食パンと牛乳をカゴに追加した。
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