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マンションの集合ポストから手紙を抜き取り、エレベーターに乗る。部屋に着くと、淡い間接照明だけにして、牛乳を冷蔵庫に入れる。食パンと手紙をダイニングテーブルに放り出す。それから、コートと上着を脱いで、身体をソファーに投げた。こんな夜になる筈はなかったと思う一方で、こんなことになる予感もどこかで抱いていた。
――プシュッ
まだ冷えたままの缶に口を付ける。味なんかどうでもいいから、一気に半分空けた。
「……バッカヤロー」
呟くと情けなくなる。アイツをなじっているのに、どんどん惨めになってくる。
好きなのは、僕の方だけなんじゃないか。仕事が忙しいのは、分かっている。だけど、だから――この日のために、かなり無理して時間を作ったのに。
「あー、バカみたいだ」
ネクタイを外して、残りの液体を流し込む。クダを巻く自分は嫌いだ。無いものねだりでウジウジする自分も。早く酔っちまえ。2本目に手を付ける。ハイペースなのは、仕方ない。多分4本目を空けたところで視界が滲み、瞼の裏にモミの木のイルミネーションがチカチカと蘇った。
『――遅くなった。待たせて、すまない』
現実では聞けなかった恋人の低い声を、耳の奥で再生して――夜に沈んだ。
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